術後感染について 〜抗生剤ってどれくらい必要?〜

目次

抗生剤を長く飲めば感染は防げるのでしょうか?

手術を受ける患者さんから、

「術後感染は大丈夫でしょうか?」
「抗生剤はどのくらい飲むのでしょうか?」

というご質問をいただくことがあります。

感染はどのような手術にも起こりうる合併症ですが、実際には鼻手術後の感染は比較的まれです。

今回は、鼻手術における術後感染について、現在の医学的な知見をもとに解説します。

鼻手術後の感染率はどのくらい?

鼻形成術後の感染率は一般的に 0.5〜1%程度 と報告されています。

つまり、100人手術を受けても99人以上は感染を起こさない計算になります。

もちろん感染率が低いからといって軽視して良いわけではありません。

一度感染が起こると、

  • 腫れや痛みの長期化
  • 傷の治りの遅れ
  • 瘢痕拘縮
  • 鼻の変形
  • 再手術

につながる可能性があります。

特に修正鼻手術や唇裂鼻手術では、過去の手術による瘢痕や血流低下が存在するため、より慎重な対応が必要になります。

抗生剤は長く飲んだ方が良いのでしょうか?

以前は、

「感染予防のために術後も数日から1週間程度抗生剤を内服する」

という考え方が一般的でした。

しかし近年では、この考え方を見直す研究結果が増えてきています。

2019年に発表されたシステマティックレビュー・メタアナリシスでは、

術後抗生剤を長期間投与することによる明確な感染率低下は証明されませんでした。

さらに近年の研究では、

  • 術後24時間以内の投与
  • 術後5日間の投与

を比較しても感染率に有意差は認められていません。

つまり、

「抗生剤を長く飲めば感染しなくなる」

という強い根拠は、現在のところ存在しないのです。

上下顎骨切り術でも考え方は変わってきています

この流れは鼻手術だけではありません。

私が研究や学会活動を通じて関わってきた顎変形症手術(上下顎骨切り術)の分野でも同様です。

以前は術後数日間の抗生剤投与が一般的でしたが、現在では

術当日の予防投与のみで十分である

というエビデンスが蓄積されています。

もちろん手術の種類は異なりますが、

「長期間抗生剤を投与することが必ずしも感染予防につながるわけではない」

という点は共通しています。

鼻の中にはもともと細菌がいます

意外に思われるかもしれませんが、健康な方の鼻の中にも細菌は存在しています。

ある研究では、

  • 正常細菌叢:78%
  • 黄色ブドウ球菌:10.7%
  • MRSA:0.28%

が検出されました。

つまり、

鼻の中に細菌がいること自体は特別なことではありません。

感染が起こるかどうかは、

  • 細菌の種類
  • 細菌量
  • 組織の血流
  • 傷の状態
  • 異物の有無

など複数の要因によって決まります。


術前の培養検査は有効?

最近では術前に鼻腔培養検査を行う施設もあります。

培養検査によって、

  • 黄色ブドウ球菌
  • MRSA

などを保有している患者さんを事前に把握できる可能性があります。

特に、

  • 修正鼻手術
  • 人工物が入っている症例
  • 重度の瘢痕を伴う症例

では有用性が期待されています。

一方で、

現時点ではすべての患者さんに培養検査を行うべきというエビデンスは十分ではありません。

そのため、症例ごとに必要性を判断することが重要だと考えられています。

私が大切にしていること

感染予防というと抗生剤に目が向きがちですが、実際にはそれ以上に大切なことがあります。

私は手術の際に、

  • 組織の血流をできるだけ温存する
  • 不必要な異物を使用しない
  • 過度な緊張をかけない
  • 死腔(組織の隙間)を作らない
  • 丁寧な止血を行う

といった外科手技を大切にしています。

特に修正鼻や唇裂鼻では、感染予防と形態改善の両立が重要です。

そのため、単に抗生剤を増やすのではなく、

感染が起こりにくい環境を手術で作ること

を常に意識しています。

まとめ

鼻手術後の感染率は約0.5〜1%と比較的低いことが報告されています。

また近年の研究では、

術後抗生剤を長期間使用することによる明確なメリットは示されていません。

感染予防で最も重要なのは、

  • 適切な手術計画
  • 丁寧な手術操作
  • 適切な術後管理

です。

私は形成外科医として、そして研究者として、最新のエビデンスを踏まえながら、患者さん一人ひとりにとって最適な治療を提供したいと考えています。

参考論文

  1. Patel PN, et al. Antibiotic Prophylaxis in Rhinoplasty and Septoplasty: A Systematic Review and Meta-analysis. Facial Plast Surg. 2019.
  2. Ricci JA, et al. Evidence-Based Use of Perioperative Antibiotics in Facial Plastic Surgery. JAMA Facial Plast Surg. 2018.
  3. Yoo DB, et al. Nasal Bacterial Flora and Preoperative Screening in Rhinoplasty Patients. JAMA Facial Plast Surg. 2015.
  4. Khechoyan DY, et al. Preoperative Nasal Screening and Decolonization in Complex Septorhinoplasty. Facial Plast Surg Aesthet Med. 2020.
  5. Bratzler DW, et al. Clinical Practice Guidelines for Antimicrobial Prophylaxis in Surgery. Am J Health Syst Pharm. 2013.

よくあるご質問

Q. 鼻手術後に感染することはありますか?

A. 感染の可能性はゼロではありませんが、鼻形成術後の感染率は約0.5〜1%と報告されており、比較的まれな合併症です。

ただし、修正鼻手術や唇裂鼻手術など、過去の手術による瘢痕や組織のダメージがある症例では、より慎重な管理が必要になることがあります。

Q. 抗生剤を長く飲めば感染は防げますか?

A. 現在の研究では、術後に抗生剤を長期間内服することで感染率が明らかに低下するという強いエビデンスは示されていません。

感染予防で重要なのは、適切なタイミングで抗生剤を使用することと、丁寧な手術操作や術後管理です。

Q. 感染した場合はどのような症状が出ますか?

A. 術後の経過で、

  • 強い痛み
  • 急激な腫れ
  • 赤みや熱感
  • 膿が出る
  • 発熱

などが見られる場合は感染の可能性があります。

術後に気になる症状がある場合は、自己判断せず早めにご相談ください。

Q. 鼻の中に細菌がいても大丈夫なのでしょうか?

A. 健康な方の鼻の中にも細菌は存在しています。

細菌がいること自体は異常ではなく、多くの場合は問題ありません。

感染が起こるかどうかは、細菌だけでなく、組織の血流や傷の治り方、異物の有無など様々な要因が関係しています。

Q. 術前の培養検査は必要ですか?

A. すべての患者さんに必要というわけではありません。

ただし、

  • 修正鼻手術
  • 人工物が入っている症例
  • 感染歴のある症例
  • 重度の瘢痕を伴う症例

などでは、必要に応じて培養検査を行うことがあります。

Q. 修正鼻手術は感染しやすいのでしょうか?

A. 必ずしも感染しやすいわけではありませんが、過去の手術による瘢痕や血流低下、人工物の存在などが影響することがあります。

そのため初回手術以上に、組織の状態を正確に評価しながら治療方針を立てることが重要です。

Q. 感染を防ぐために患者さん自身ができることはありますか?

A. 術後の注意事項を守ることが大切です。

特に、

  • 処方薬を正しく使用する
  • 傷や鼻の中を必要以上に触らない
  • 喫煙を避ける
  • 体調管理を行う

ことが感染予防につながります。

特に喫煙者の患者さんは術後1ヶ月間は禁煙をしていただくことが大切です。

Q. 感染したら必ず再手術が必要ですか?

A. 必ずしも再手術が必要になるわけではありません。

ちなみに、私の患者さんで術後感染のために再手術となった患者さんはいらっしゃいません。

早期に発見できれば、抗生剤治療や適切な処置で改善することが多いです。

ただし感染の程度によっては、人工物の抜去や再建手術が必要になる場合もあります。

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著者・監修

勝部 元紀

形成外科専門医・指導医
美容外科専門医(JSAPS)
医学博士(京都大学)

京都大学形成外科にて、口唇口蓋裂や顎顔面領域の診療・研究に従事してきました。
美容外科では鼻形成を専門とし、初回手術から他院修正、唇裂鼻まで幅広く診療しています。

治療に関するご相談

鼻整形や唇裂鼻治療、美容外科治療に関するご相談を承っております。

治療について気になることやご不安な点がございましたら、お気軽にご相談ください。

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